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な……なっ?
「な……なっ」
アスカのマントを翻したのも、男の格好付けた着地にしても、風の煽りがなければ不可能だった。その勢いが可憐な花びらを吹き上げ、撒き散らし、満開に咲く日を楽しみに世話した母親の労力までもを消し飛ばしたのだ。
傍目には幻想的で絵になっていたことだろう。かしましい精霊達の熱い溜め息も聞こえて来る。アスカ自身も喜んだ。今となっては後悔するばかりだが、後々の教訓として覚えておくつもりではいる。それでも花びらの件がなかったのなら、少女趣味過ぎるきらいがあっても、瞬間移動をされなかったのだから、高揚して当然という気がした。そうした慰めも瞬間的だ。母親の驚きと怒りがわかるだけに、アスカの気分は暗くなる。
男のことは責められない。いらぬ気を回した風が悪い。といって風に怒鳴ったところで、どこ吹く風と逃げられて終わる。
「な……なっ」
それでアスカは男に向けて八つ当たりするように叫んだ。
「何してくれんだよ!」
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