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やっぱりここに?

 案の定、風はどこ吹く風と好きにする。アスカの足元にじゃれ付いて、撒き散らした花びらをふわふわとからかうように吹き上げ、勝手気ままに楽しんでいる。それをアスカは蹴散らした。ついでに未だ背中に手を添えていた男の足も蹴り付けて、言い慣れた言葉を呟くように口にした。 「クソったれがっ」  花びらをなくして身ぐるみ剥がされたような茎と葉っぱが哀れに映る。こうなっては下手に言い訳するよりも、父親が使う奥の手に頼ってひたすら謝る方がいい。母親の機嫌も早く直ると、そうアスカが考え及んだその時だ。元気で威勢のいい声が耳に響いた。 「あああっ」  それが男を思ってのフジの声というのはアスカも理解することだ。見た目も身分も豪奢なヴァンパイアに、これ程にも溌剌として無遠慮な声を出せる者が他にいる訳がない。男を父親と慕うフジならではの拗ねたような甘えもある。 「やっぱりここにいたね」  まさに確信通りの声音がアスカの耳に響き続いた。

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