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ピンと来るよ?

「アスカさん絡みだと思ったんだ、昨日の調査の報告があると知ってて、いないなんてさ、何度呼び掛けても反応ないし、そんなこと、今までなかったでしょ?」    フジの口調もさることながら、態度にも慣れ親しんだ不躾さがあった。嫌みに思わせないのが取り柄とも言えそうだが、こちらに近付く歩調には不貞腐れたような苛立ちを確然として伴わせている。格好は一昨日の夜と大して違わない。同型の色違いを何着か持っているようで、灰色の色味が濃くなっただけの冴えないスーツに身を包んでいる。ただしパンパンに膨らんだ鞄は置いて来たのか、手ぶらだった。 「本社ビルに代表室があったって、人間種社会だしね、予定がなきゃ絶対に行かない、書斎を仕事場にしてさ、だからナギラさんに聞いたよ、そうしたら、もふもふ顔を赤くして僕から逃げてくし、これじゃね、すぐにピンと来るよ」  迎え撃つ男の態度が冷淡で厳めしくても、その程度で怯むようなフジではなかった。

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