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邪魔したくない?

「逃がさないからね」  フジは男の腕をむんずと掴み、まるでアスカと綱引きするかのように自分の方へと引っ張った。アスカの思いにお構いなしなところは、それの五人も似たようなものだったが、彼らには感じなかった苛立ちやむかつきがフジにはある。五人を怒鳴り付けはしても、男の考えを代行したのであって、アスカ自身の思いからではない。その違いが男の態度にも出ているように、アスカには思えた。  それも当然かもしれない。フジは男の亜種としてヴァンパイアになった。男に寄せる気持ちは清浄として、僅かな翳りもありはしない。対して、それの五人は利己的な欲望でもって死者になった。男と共に身命を賭して天下を狙うといった壮大な夢を語ろうが、彷徨う道を選ぶようでは邪な想念しかないことになる。 「僕だって邪魔したくない」  怒ってもなお元気で明るいフジの声に、アスカは苛立った。それでも五人のお陰でか、その苛立ちに笑いが浮かぶのも確かだった。

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