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風が悪ぃんだけど?

「俺に会いにじゃねぇ、花達にってとこで……」  アスカは愛想良さげに表情を緩め、下手に出るようにして言葉を繋いだ。 「となりゃ、こんな無様な姿、見せられねぇ、だろ?」  女らしい勘の鋭さがあるとしても、母親は能力者ではない。アスカに連絡を入れたのも、単に満開の時期を知ろうとしただけのことかもしれない。それをあの時、来週では花の盛りが過ぎているとわかっていたのに、アスカは心配ないと答えてしまった。 〝本当ね?〟 〝ああ、心配すんなって〟  疑い気味な母親を安心させようとして返したのだが、それにも理由があった。花達に何やかんや話し掛けているせいか、母親は地の聖霊に好かれている。来週にしか来られないと伝えておけば十分だった。寡黙が常の優雅で奥ゆかしい地の聖霊が、あの時ばかりはくぐもった声を出したのだ。満開の引き延ばしも保証されたことになる。 「まぁな」  あの時のことを思い、アスカは続けた。 「全部、風が悪ぃんだけどよ」

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