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形作る唇の?

「うーん」  アスカは精霊達が静かにする理由を考え直してみた。約束とはいえ、モンスターも恋愛絡みのくだらない噂には興味がない。自分達の過去に触れない内容であるのなら、精霊達が騒ぐのにも融通を利かせている。聖霊達もアスカという格好な聞き手を物にしたのだ。そこは注意して騒いでいた。それなのに『人間外種対策警備』の入り口に立つ青年からは、何も聞こえて来ないでいる。『霊媒』の能力を気にしてとも考えられるが、それにしては静か過ぎた。聖霊達には沈黙することで警戒させるといった高尚な行動を思い付くような知性がない。恐怖から来るだんまりであるはずもない。そうなると、ここでの沈黙は自然界の精霊と同じということになる。 「で……か?」  要するに遊びだ。アスカにはただただ面倒でしかないのだが、その苛立ちによって気付かされたことがある。さらに近付いた時、青年の弱々しさを形作る唇の端に邪気が漂ったのを見逃さずに済んでいた。

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