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放置された?

 今日もうららかな日和だ。そして前方には人間がいる。その人間に能力があるとしても、アスカの周りだけに風が吹くとすれば、さぞかし異様な光景と思わせたことだろう。霊媒の他にも透視や念写、物体移動や予知といった能力が認められているが、自然界の精霊を自在に操る能力は存在していない。不自然極まりない風景は自重するに限る。  世間が法の下に〝人間種・人間外種〟と振り分けようが、聖霊にとっては〝アスカとアスカ以外の者〟という分け方しかない。自然界の聖霊にはそれが特に著しい。観察対象ということもあってか、アスカ以外の人間にはモンスターを相手にする時のような気楽さを見せない。畏敬の念をいだかせる為というが、荘厳にして親しみ深く、雄大にして細やかであろうとする。風もそうした理由から、一言の断りもなく、どこかの吹き溜まりへと去って行ったのだ。 「ってもよ」  アスカにはわかっていることだが、放置されたようで面白くなかった。

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