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男の背後から?
「君は……っ」
怒りの鬼面は喋ることも出来た。さらには言い付け一つ守れないのかと、説教したげな面に取り替えも可能だった。そうした鬼面から発せられた渋い声音の艶めく甘さに、縮み上がったアソコも弛緩する。もちろん欲情で恐怖を抑え込んだのではない。ぴくりともしないだけに、僅かばかりの恐れは残されている。怪力や瞬間移動という物理的な力による肉体への刺激を懸念してのことだが、それが壁には―――男にはわからないようだ。苛立たしげに口ごもり、棒状の何かを―――所謂、筋骨逞しい腕を引いて後ろに下がっていた。
「て……めぇ」
男の態度は紳士的だ。相手が女なら最高だろう。だからこそアスカは怒鳴り付けていた。
「ふざけてんじゃねぇぞ!」
その怒鳴り声に青年が興味を持つとは思わなかった。というよりも義侠心といったところかもしれない。自分に対して背中を向ける形で立つ男の背後から、覗き見るようにしてアスカに声を掛けて来たのだ。
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