700 / 812
大概は拳を?
「あっ……と」
青年は遠慮するように、それでいて驚くようにそう言った。義侠心にしてはお粗末な台詞だが、アスカの顔を間近で見て、言おうとした言葉がそっくりそのまま消えた結果というのなら、納得も行く。アスカにすれば何度も経験していることだ。青年は整った顔立ちに雅やかな魅力を描く切れ長の目を、微かではあったが見開いてみせたと、確信をもって言い切れるのだった。
『人間外種対策警備』の入り口に立ち、こちらに顔を向けていた時には、アスカの顔はフードに隠されていたのだから、青年の興味も顔にはなかったとわかる。男にぶつかってフードが外れたあとも、男が邪魔で見えていなかったはずだ。男の背後から覗き込んだことで、はっきりと目にし、驚いてみせたとなる。
こうした場合、人間種社会でのアスカは直裁的な行動に出ていた。大概は拳を握って脅すだけだったが、精霊達の噂によっては、それで済まないこともあった。即座に殴り倒していた。
ともだちにシェアしよう!