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体の自由を?

「よっし」  アスカは迷いを捨てた。全てを気のせいにしたに過ぎないが、効果という点では最強であり、抜群の成果も転がり込む。要するにそうすることで、男を無視し、青年をも同様にして、リンに声を張り上げるといった不遜な態度が平然と出来てしまえる訳だ。 「アルファ、いる?」  リンが突然のことにぎょっとしたのは当然だろう。頬を引きつらせたのだ。アスカにも否応なしにわかる。それでも笑顔であるのに変わりはない。プロに徹しての爽やかさが失われた程度で尻込みしては、その笑顔にも失礼に思えた。 「話があ……」  アスカは何食わぬ顔でのほほんと続け、リンに向かって歩き出した。そうしながら言葉を繋いだはずが、口がひしゃげてうまく声にならないでいる。 「……ぐぅぅっ?」  次の瞬間、真っ暗闇にいた。フードで顔を隠すのだから、視界の悪さは承知しているが、それだけのことだ。喋りに支障はない。あまつさえ、体の自由をなくすことは起こり得ない。

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