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またも男に?
その時、アスカの頭にあったのはアルバイト風山男だった。笑いに弾けるもふもふ顔は瑞々しく、落ち着き払ったヴァンパイアの美貌と色気を破壊せしめるかのような可愛らしさに溢れている。今のところは想像の域を出ない笑顔だが、そうしたルンルンな日々を夢見て、最初の一歩を踏み出そうと手にしていた籐編みの手さげかごの行方が知れないでいる。
手さげかごにはモンスターカフェの手作り弁当が入っていた。それを昨夜、アルバイト風山男が家まで運んでくれたのだ。手渡したあとは野兎のように走り去って行ったが、そのいじらしさには胸を打たれた。つまり手さげかごが取り持つ縁に、愛欲の新たな炎が浮かんだということだ。
「……かご?」
杓子定規な男に理解出来ることではない。理解させたくもない。瞬間移動で空の彼方に飛ばされたとしか思えないのだから、男をいたぶるのに適していればそれでいい。ところがどういう訳か、またも男に鼻で笑われてしまった。
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