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風なら必ず?
「ふふっ」
「ああん?」
アスカにきつく返されようが、男の笑いが消えることはない。そのまま楽しげに答えもする。
「かごとは笑止、ゆくりなき君の抱擁をも払わぬというに」
「うるせっ」
言い掛かりを付けるな、ただの怖がりのくせにと、そう馬鹿にされたようなものだが、否定出来ない悔しさよりも、アソコもぴくつく甘い声音で言われたのが、アスカには憎らしくてならない。アスカは肉体的にはしがない人間だ。超人的な身体能力とは無縁な存在にある。空中高くに漂う雲―――即ち水蒸気の凝結に勢い込んで立てる訳がない。そこのどこに笑いの要素があるというのか、どうにも我慢が出来ない様子で男が続けた。
「精霊どもが……」
もったい付けて、おかしそうに言葉を繋ぐ。
「信じられぬか?」
「……っ」
ここで頷きでもしたのなら、大惨事になるだろう。アスカを落下させると見せ掛けて、反対にぽんぽんと天高く吹き上げる。拗ねて面白がって、風なら必ずそうする。
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