「ああ……」 　この時、確かに男は微笑んでいた。しかし、アスカがちらりと見上げた時、そこには完璧な無表情があるだけだった。 「君の眼前にいた者が……」 　そう続けた男の声音は渋くて甘く、うっとりと聞き入りたくなるくらいに心地いい。アソコもご執心の声音だが、アスカからすると胸の奥深くに宿る女の記憶がさせるようにも思えて、アソコ程には楽しめない。そこがアスカにはむかついてならないが、話の邪魔はしないでいた。男が無表情に込めた思いに同調し、ただ静かに耳を傾ける。 「我が子孫であるが故に、とは申せ、末席に過ぎぬがな」 　男は続けた。家臣の謀叛が男をヴァンパイアへと変異させたが、一族の古書にはそうした記述はない。あの日、死体すら燃やし尽くした猛火によって、女と共に焼死したと書き記されている。そうなるよう男が仕向けたというが、事実がどういったものであっても、その記述がある以上、男と女の死に間違いがないことにはなった。