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隣国にくだった?

 その後に何があったのかはアスカにもわかっていた。主君の仇を討った家臣が一族を差し置いて領主になった訳だが、その栄華も長く続かなかったと、男は言った。領主となった家臣も天下人を目指すが、哀れなことに、男と同盟を結んでいた隣国の領主に滅ぼされてしまうことになる。 「あやつとは……」  男がそう呼んだ隣国の領主との出会いは、女と同じに人質として送られて来たことによる。何が気に入ったのか、男を兄と慕い、追い掛け回していたそうだ。それもあってか、少年期に既に領主となっていた男によって、国に戻れるよう図ってもらえたのを恩義に思い、男が死するその日まで、男への忠誠を頑固に貫いた。利を優先するべき戦乱の時代において異常とも取れる行動だが、のちに天下人になったのがその隣国の領主というのなら、頷けもする。利に聡く、情に厚い。男がいてこその忠誠ということだろう。これでは隣国にくだった男の一族に国替えが命じられもする。

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