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手すさびで?

「全ては黄金が為」  この地が豊かであった理由をも、男はその言葉に込めて答えていた。要するに高位の精霊の集まり所ということだが、事情を知らない人間には単に未採掘の金鉱が存在したからという解釈になる。そうした内容の書物が、男の死後、一族が残した文献に紛れ、主流の長に門外不出として伝わっていた。青年の先祖である末席の縁者には眺めるのすら敵わないはずの書物だが、領主の地位に就いたことで通覧も可能となった。 「ったく」  そのはた迷惑な書物の著者が誰であるのかを、アスカは理解していた。胸の奥深くがざわめいたのだ。聞くまでもなく気付けてしまえる。それで忌々しげに呟き、言葉を繋げた。 「ダチとの思い出日記かよ」  それが男には嬉しかったようだ。抑制の利いた声音に笑いを含ませ、こう返して来た。 「まさしく、奇想天外なる物語の類い」  そして女がアルファから聞かされた話をもとに手すさびで書いたものと、懐かしむように続けていた。

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