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装いながら?

「故に……」  ヴァンパイアに変異した男にとっても、気に掛けるようなことではなかった。領地に語り継がれる摩訶不思議な話を集めた伝奇小説といった内容であり、そこに暮らすモンスター達にも害のないものだった。青年の先祖も、初めのうちは奇々怪々な話の羅列と馬鹿にしていたようだが、読み終わるころには、金鉱脈の場所についての詳細な記述に胸が騒ぎ、真偽の程を確かめたいと思い始めていた。 「だが……」  主流の血筋からすれば、傍系でもないような縁者が求めるものは、欲のみだ。領地領民への責任は皆無と、男はひややかに続けた。結果、どこぞの金持ちに競り負け、それを恥辱と、おこがましくも領地奪還を悲願とし、のちに訪れた時代の変化に黄金への熱もより鮮明となる。男が何者かも知らず絡み出したのはそれによるが、モンスター居住区を管理する不動産会社の代表を相手に、居住区解放賛成を装いながら、その裏で反対派に与していたからでもあった。

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