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手をこまねく?

「愚かなことよ」  そう男が続けた時、ふと気にして見上げたアスカの目に、完璧な無表情が映されることはなかった。声音に嘲りを感じさせたように、皮肉めいた微笑みに美貌も崩されている。そこに浮かばせた男の気持ちがアスカに理解出来なくはない。血族と言えるかどうかも怪しい縁者が家名を名乗っているのだ。アスカには末席だろうが子孫と思えたことでも、男には背乗りされたような感覚になるのかもしれない。 「私など、あやつらには……」  自嘲じみた口調で話を継ぐ男が、逆にアスカには憤怒を思わせる。 「人間どもに逆らえぬただの化け物ぞ」  だからこそ、浅はかなことも出来てしまえた。居住区解放における賛成反対両派とかかわることで、現代の持ち主である不動産会社の代表、即ち男を交渉という罠に誘い込もうとしている。男が巨額な損失を前に手をこまねくはずがない。欲に目が眩んだ頭ならそうした考えに捉われもすると、アスカにもわかることではある。

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