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直接本人に?
「っうか……」
これ全て、意識に介入して来た精霊が悪いとなる。アスカの思いに沿ったものならまだしも、男の話の流れに合わせてのことなのだから、尚もって腹立たしい。苛立ちは増すばかりだが、それなのに壮年期の穏やかな声音がアスカには無視出来ないでいた。偉大なる精霊の気ままさに負けて、脳内で反芻してしまっている。
〝死しても忘れは……〟
天下人の―――そこは素直に心のうちでフジの前世と思い直し、アスカは諦め気味にその言葉の意味を考えてみた。
〝……忘れは致しませぬ〟
そうした感情も世代が移れば消え行くものだ。男にしても天下人の名を冠する時代の終焉と同時に、新たな時代の資金にと黄金の回収に向かったことだろう。利子を付けての返済といった話に繋がると納得もする。
「けど……」
そうした話は余談に過ぎない。男を思って付き合いもしたが、知りたいことはそこにはない。直接本人に尋ねるしかないのはアスカにもわかっていることだ。
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