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そこに思い描ける?

〝代表に片膝付いて挨拶する時の……〟  はたきを持つ山男を―――ナギラを擁護して、こう言ったのはフジだった。この台詞がアスカに武闘家を思わせたのは確かなことだ。 〝もふもふ姿、たまらない〟  そう続けることで、大切な仲間というのをアスカに伝えようともした。それであの時、領主に忠誠を真摯に誓う騎士の如くにかしずく姿を、侠気と取るか道化と取るか、実際に目にしたあとで判断しようと決めたのだ。その答えもこれで知れた。侠気も道化も的外れだった。残念という言葉に真理はあった。  男との出会いが戦乱の世というのがそもそも悪い。男の為にと自然界の精霊を動かしたナギラのその勇気をもって、先入観に捉われもする。山男達による休日のパフォーマンスも、これまた悪い。魔を祓う力があるとされる仮面を付けての踊りは迫力満点で、腕っぷしの強さを見せ付ける。軽く睨まれた程度でつぶらな瞳を潤ませるような山男像が、そこに思い描けるはずもない。

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