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ドアはない?

 男の瞬間移動にそれらしい説明がされたことはない。今回も前触れなしに運ばれて来ている。そうなると、まずアスカが知るべきことは自分の居場所についてだが、ナギラがどう答えるにしても、視線を周囲へと流しながら問い掛けていたこともあって、アスカにはほぼ見当が付いていた。  ここが中央にマントルピース付きの暖炉を配した応接室というのは明らかだった。暖炉といっても煙突がある訳ではない。電池式ヒーターを備え付けた装飾としての意味合いが強い。アスカはその横の白花色の壁に手を付いていた。その手を離しつつ、さらに部屋全体を興味深げに眺め遣る。 「ふぅん」  部屋は静謐として飾り気がなく、高級感漂う薄墨色のソファだけが置かれてあった。柔らかな秋の日差しが降り注ぐ裏庭へと繋がるガラス戸は開け放たれ、隣の部屋に通じる開き戸は閉じられていた。廊下と接する出入口にドアはなく、そこから覗き見える玄関ホールもすっきりとして清爽だった。

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