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ご領主様の?

「へぇ……」  アスカは納得して思っていた。ここがどこなのかの見当は、開け放たれているガラス戸でわかることだ。瞬間移動が可能としても、男が実体を持って生きるからには、精霊や幽霊のように壁を通り抜けるのは不可能だ。ましてや肉体が人間のアスカをかかえての入室となると、壁をぶち壊すしかないのだが、変態屋敷さえ後生大事にしていた男に出来ることには思えない。 「てか、あいつ……」 〝時代は幾らも便利な暮らしを用意する〟  この男の台詞にも思いの正しさを感じてならない。男は異文化的で華やかな内装の牢獄にもなり得る尖塔を有した変態屋敷を自ら建てながら、こう批判してもいたのだ。 〝前世紀の遺物など不便なもの〟  ここはそうした考えのもとに開放的で機能重視に建てられている。アスカにすればナギラに問い掛けるまでもなかったとなるが、それでもしっかりした口調で〝ご領主様の屋敷〟と返された時には、感謝を込めて頷くくらいはしてみせた。

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