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憧れがある?

 全ては精霊の声が聞けるという唯一無二の能力者が背負う宿命なのだ。精霊達はアスカの家族であり、切る捨てるような真似をしてはならない。腹が立っても、そこは家族らしく、ありのままを受け入れる。しつこい喋りには聞き流すことで遣り過ごし、むかついた時には怒鳴り付けた上で反省させる。そういった具合にだ。それさえ楽しまれているとしても、フジのように出禁にしてやると叫ぶのは宜しくない。 「クソがっ」  続けて口にしたことで顔付きを険悪にしてしまった。それを無理にも笑顔に戻したせいか、ナギラがヒゲボーボーのもふもふ顔を俯かせつつ、震える声音でこう返して来た。 「ご領主様より紹介がなされず、ご挨拶が遅れましたこと、深くお詫び申し上げます」 「は……い?」  ナギラはアスカには理想だ。テディベアのようなモーニング姿に武闘家の夢を壊されようが、理想であることに変わりはない。潤む瞳が子供のようでも、むさ苦しい中年には憧れがある。

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