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母親に披露した?

「で?」  アスカが不寛容な調子に促したからだろう。ナギラが気分を変えるように微笑んだ。そのあとで、男の世話や屋敷の管理をする山男達に必要と答えていた。 「わたくしとフジ殿が通いに致しましても、従僕には未だ住み込みをさせておりますしね」 「通い?住み込み?」  そういった言葉に、アスカは特別価格の別荘を言葉巧みに売り付けた不動産会社の担当者の台詞を思い出す。 〝気のいいお二人ですよ〟  その二人がフジとナギラなのは承知のことだ。ナギラの話で、別荘の購入を機に通いにしたのも理解する。しかし、アスカが気にしたのはそこではなかった。 「ったく」  思い出すだけでも落ち込まされる。先に売れた二軒の入居者がヴァンパイアと山男であるのを、担当者は軽い世間話のようにして告げた。それも図ったように少女趣味の極みのような売れ残り物件を母親に披露したあとでだ。必然の結果として、アスカは気のいい二人に引っ越しの挨拶をする羽目になった。

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