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ナギラの呟きに?
「ですから、ご領主様は……っ」
会議中と口にしたことで気付いたのだろう。従僕は声を弱めたが、相手には伝わらない。構わず怒鳴り散らしている。
「どけっ!山男風情が!」
「我らはヌシ様の糧だぞ!」
アスカなら豪快に〝で?〟と怒鳴り返してやるところだが、従僕となるとそうも行かないようだ。〝ですから〟と困り果てた調子に同じことを繰り返している。それでアスカは思った。権威を笠に着るのはヤヘヱの十八番だが、ヤヘヱのそれにはまだ可愛いげがある―――と。男の側役と威張り腐ろうが、小心さが滲み出るその喋りには笑わされもする。そうした可愛さが糧達の声からは感じ取れないでいた。
ヴァンパイアにとっての糧が糧でしかないと知るからかもしれない。とするのなら、ヌシの糧と叫ぶのも、男との関係を理解した上での盲目的な隷従ということになる。
「だな」
アスカは口元を軽く歪めてそう判断したが、そこにかぶって響いたナギラの呟きに確信を得た。
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