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どうにも笑えて?

「けど……」  ここは男の屋敷だ。問答無用で殴り掛かる訳には行かない。まずは相手の言い分を聞き、融和的な態度で話し合う。それで駄目なら実力行使と、アスカはそうした考えのもとに廊下に出て、キイを出せと叫び散らかしている糧達を興味深げに見遣った。  食堂では二人分の声を耳にしていたが、そこには確かにアスカと同年代の二人がいるだけだった。と同時に、その二人ににんまりさせられるとは、アスカにも思い至れることではなかった。 「おいおい」  二人は共に女と見紛う程の美貌を持たない。兄弟のように似通った顔立ちの少年じみた可愛らしさを残す青年達で、流行りのシャツにスラックスといった軽装だが、仕立ての良さに見映えがする。それがヌシによる男の好みということだ。ロングドレスにフード付きマント、着古したよれよれスウェットとは縁遠いところにいて、そこは大いに違っても、アスカには自分が意識されたようで、どうにも笑えて仕方なかった。

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