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二人は無意識?

「なぁ……」  アスカは笑いを含んだ声音でゆったりと、糧の二人に向けて声を掛けた。そして壁にもたれて腕を組む。まずは融和的に話し合うと決めたのだ。拳を出さないよう自制してのことだが、お陰で視界の隅に腕時計にへばり付くヤヘヱの煌めきを捉えることになる。油断ならないとは思っても、ヤヘヱの相手をしている暇はない。内心の苛立ちも脇に置き、アスカはゆったりした口調のままに言葉を繋いだ。 「もうちっとさ、静かに喋れねぇの?マジ、うるせぇんだけど」 「きさま、何を……」  アスカの登場は二人には勝手が違った。威勢の良かった二人に戸惑いが出始める。アスカはそれを好機と見て、壁から体を起こして腕組みを解いた。もちろん殴り掛かろうというのではない。密な話し合いの為、単に近付こうとしたに過ぎない。それでも一歩二歩と歩みを進めるアスカに合わせて、二人は無意識といった体で左右に大きく開けてある両開きの玄関扉へと後ずさっていた。

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