802 / 814

脅すような勢いで?

 アスカの首筋にもキスマークがある。何故にその位置なのかは余り考えたくないことだが、男がそれを〝紋章〟と呼んだように、ヴァンパイアそれぞれの所有を間違いなく示したものだ。ヴァンパイアにしか見えないという意味からして、糧の回しを禁じる仲間内の掟をも明示していることになる。その禁を犯せば、ヴァンパイアと糧の双方に仕置きをされるというが、糧達には知る由もない話ではあった。  そういった糧達をわざとらしく差し向けるヌシに、男に禁を犯させようという下劣な考えはない。人間の血を必要としないのでは、犯させようもないのだが、それを敢えてするのは、男に―――愛による変異が作り出す感情の稀有な味わいに、のぼせているからだ。 「ああ、そうさ」  アスカはにやりとして続け、ヴァンパイアの秘密に触れないよう気を使い、こう言葉を繋げた。 「あんたらは野郎を釣り上げる為の餌、ってな」  そしてさらに一歩、脅すような勢いで前へと進み出た。

ともだちにシェアしよう!