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称賛に綻ぶ?
「き……さまっ」
「ふざ……けやがって」
糧の二人が真っ青になりながらも強気でいられるのは、ヌシを信じてのことだろう。どういった幻想をいだいていようが、幻惑されたままでいる方が幸せではある。二人の夢を壊したところで得るものもない。それでもアスカにはその人生を占ったことに責任があった。
「これはお試しですよ」
アスカは客に対するのと同じ心遣いを見せることにした。床に尻を付けて座り込む二人にフードを揺らし、言葉遣いも丁寧に続けて行く。
「より深くお知りになりたければ、ご予約を」
二人にはこの誘いがかえって恐ろしかったのかもしれない。我先にと立ち上がり、玄関先に停めてあった車に転がるようにして乗り込み、魔女撃退とばかりに無意味にエンジンを吹かしたあとで、一目散に走り去る。
「ったく」
そう呟いたアスカの耳に、ナギラの声が穏やかに響く。
「お見事にございます」
振り向くと、称賛に綻ぶ山男達のもふもふ顔と出会えていた。
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