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気まずさは残る?
「おう」
アスカにすれば、もふもふ顔の称賛くらい嬉しいものはない。そうした思いを見せようと、フードを外して顔を出し、微笑みながら言葉を返した。
「あんな奴らじゃ、なんの自慢にもならねぇさ、けど、ありがとよ」
「何が……」
背後から不意に響いたその美声が、誰のものであるのかは振り返るまでもなくわかることだ。しかし、余りに突然で、アスカはぴぇと素っ頓狂な声と共に飛び上がってしまった。その拍子につんのめってもいたが、気まずさにへらへらと笑い続けていた。飛び上がる直前、ナギラ達山男が恭しく頭を垂れたのを目にしていたのだ。そこで気付くべきだったのに、瞬間、得意にもなっていた。つんのめって床に顔から突っ込んで行きそうでも、笑い続けるしか道はない。
「何がありがたいのか?」
平然とそう続けた声の主に―――男に片腕を掴まれ、事なきを得たとしても気まずさは残る。救いは女扱いされていないことだ。男の手に優しさはなかった。
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