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へつらってやった?
「んなこたぁ……!」
それでもアスカはついムキになって怒鳴り付けそうになった。どうにかこうにか気持ちを抑え込めたのは、ひとえに腕時計と言い合う姿が滑稽この上ないと思えたからだ。その悔しさが続く言葉に自然と滲み出る。
「わかってんだよ」
とはいえ、ヤヘヱは精霊だ。男に名付けられ、個性を持ったはぐれ者にはなっても、物に宿る精霊達と同類というのに変わりない。噂好きの性根に駆られ、自ずと喋り出す。やいのやいのと催促するだけ徒労となるのだ。案の定、ヤヘヱは光の粒をより大きくしながら、無知な配下を諭そうというかのように悠々と返して来た。
〝面談を申し入れたはアルファぞ〟
偉ぶった口調が憎らしいが、ヤヘヱに話をさせる為にも、ここが我慢のしどころではある。それでアスカは興味深げに頷いて、腕時計にへばり付く煌めきに向けてにやりとしてみせた。甘えったの我がままにへつらってやったのだが、見事、ヤヘヱは釣られてくれていた。
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