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甘く優しい響きで?

〝我らが殿の子孫を騙るあやつを……〟  男を闇雲に崇拝しているのだから、ヤヘヱの口調が変わるのはアスカにしても理解することではある。偉ぶった調子から重厚感に溢れた実直な響きへと変えられようが、むかつかずに聞き入ってもいられる。 〝……理由とせねば、殿とて受けたりせぬ〟  情報の入手経路も気になるところだが、精霊の端くれであるヤヘヱには盗み聞きこそが生きる指針なのだ。そこを今更つついても無益と、アスカは割り切った。ヤヘヱの言葉に気持ちを向けて、事実のみを呟く。 「今朝のあいつか」  同時にその青年が霊媒であること、風が作り出した雲の上で聞かされた男の話が頭に浮かび、途方に暮れた気分でこう続けた。 「なんてこった」  『人間外種対策警備』に出向いて来られたのも、霊媒の能力に自信があってのことだろう。そうでなければ、ヴァンパイアと揉める魔女とのあいだに割り入れはしない。甘く優しい響きで声を掛けたりも出来るはずがない。

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