816 / 962

寵愛を実感した?

「あんた、マジ、愛されてんな」  男に対する精霊の扱いとアルファに対するそれとの違いを、アスカは多少の同情心からそう皮肉った。アルファが怪しげな山の頂上まで疾走したのは間違いない。シャツの袖をまくり上げ、ネクタイも緩めていたので思えたことだ。汗ばんでもいるようで、人狼の魅力に満ちた獣臭が風に乗って漂い流れて来る。 「っうか……」  怪しげな山の頂上は闇の領域に囲まれている。フジがそうあるように、アルファであっても許可なく踏み込んだのなら、迷い込まされて終わりだ。そこをこうして走り抜けられたのは、男の頼みを自然界の精霊が聞き入れたからとなる。 〝やっとお出ましか〟  風が気紛れに運んだアルファの野太い声も、待たされたことへの不満だけを意味したのではない。精霊の過ぎた男への寵愛を実感させられた思いも含ませていた。かしましい精霊達に脇役扱いされることで感じたアスカの同情心も、似たようなものだ。要するにむかつく。

ともだちにシェアしよう!