817 / 962

妬いてんの?

「ふむ」  そこで男の美声が聞けるとは、アスカも思わなかった。アルファへの共感から口にした独り言のような皮肉と、男にもわかっているはずだ。聞こえないふりをしても良かっただろうに、優れた聴力が禍したのか、男は律儀にこう返して来た。 「君には勝てぬがな」 「……俺?」  一応驚きはしたが、アスカには男の考えが何となく見えていた。男は精霊に最も愛されるのはアスカと言いたいようだ。というよりアルファを眺めての皮肉なのだから、胸の奥深くに潜む女を思っての発言かもしれない。そうなると精霊ではなく、アルファに愛される話に変わるが―――。 「いやぁ……」  まさにマジに馬鹿馬鹿しいと思えても、男とアルファの熱く激しい二人の世界を知る者としては否定が出来ない。女を巡ってのバトルだが、そうした肉体的接触を繰り返すうちに、女そっちのけの珍奇な愛を目覚めさせた可能性もある。それでアスカは茶化すようにこう返していた。 「妬いてんの?」

ともだちにシェアしよう!