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わざと曖昧に?

 男には黙殺された。男がアルファを相手に少しでも優位に立ちたいと思うのは、アスカも理解することだ。光を通り抜けたあと、勿体ぶって速度を遅くしたのも、アルファを意識してのことだとわかっている。それを茶化されたのだ。嫌気が差すのは当然で、黙殺されようが非難しようとは思わない。とはいえ、総じてモンスターは耳聡い。男との遣り取りがアルファに聞こえていない訳がない。事実、アルファのふっと鼻先で笑った声が風に乗って響いて来ている。それが男の癇に障ったのも、また当然というものだろう。 「これ即ち」  黙殺から一転して饒舌となる。 「アルファが望み」  恨みがましく精霊に頼む羽目になったと言いたげだが、実際は秀麗な顔を無表情にして、抑揚のない声音で話していた。 「君に代わってヌシの疑念をアルファに伝えたは知っていよう?関与せずの言質を得たと注進してもある」 「ああ、だな」  仕方なく、アスカは引き気味にわざと曖昧に答えていた。

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