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先刻のあやつが?

「わかってけど……」  それで今日、アルファに会いに行く理由を、ヌシの依頼から胸の奥深くに潜む女の頼みへと変えたのだ。ただ、それをここで口にするのは憚られる。 「てか……」  本当のところ、新たな人生の楽しみにと、藤編みの手さげかごを返しがてらアルバイト風山男を誘うつもりでいたのを、隠したに過ぎない。しかし、それで気付けたこともある。尻でへしゃげさせても、後生大事に持っていた籐編みの手さげかごを置いて来てしまったことだ。 「くぅっ」  山男繋がりで、あっさりと片付けるナギラの姿が目に浮かぶ。その無念さに呻いたのだが、男には催促と響いたようだ。不遜めいた溜め息と共に話を継いでいた。 「アルファが用件、我が子孫の愚行について、末席の者どもとて、周知されては致し方なし、だが、この身を秘匿する以上、私事とするは叶わぬ、先刻のあやつが……」  思い出したくもないのだろう。そこで男は無表情な顔に明らかな苛立ちを見せていた。

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