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曖昧に頷いた?

「あやつが……」  男の思いはアスカにも理解が出来た。しかし、無表情を崩さずにという離れ業には理解が追い付かない。占いの小部屋で出会ってから、日に日に感情を表出させる理由が掴めないでいるからだ。 「……霊媒なるも同じこと、我らには作用せぬ、先祖である私の肖像を有するというも、あれなるは贋物、私が何者であるかなど悟れはせぬ、となればビジネスとし、型通りに処理するが良計」  そう続ける男を見遣り、アスカは胸の奥深くに潜む女を思っていた。愛による変異を可能にした存在だ。ヌシの影響力さえ霞ませてしまうのかもしれない。抑揚のない男の声音にしても、美声を損なう程に感情的と言えていた。 「というに、あやつが家臣の生まれ変わりであったは慮外の至り、とは申せ、ヌシをかかわらせては辛気と思うての策、退避などせぬわ」 「お……おう」  アスカはここでも曖昧に頷いた。プンスカといった感じの男に逆らうのは、それこそ辛気というものだ。

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