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望みが一致した?

「っうことで……」  アスカは言葉を繋げながら、男の腕をつつきつつ様子を窺った。 「……あんたと」  男に抱きかかえられたことで、楽をしたのは確かなことだ。男の屋敷から怪しい山の頂上まで、途中闇の領域でずるが出来るとしても、端からアルファのように駆けて行こうという気がないのだから、否定のしようがない。その一方で、肉の塊のようなアルファを前にして、硬派に生きたアスカの心をもやらせるのも事実だった。  そういった相反する思いでつついていたのだが、男にも理解されたようではあった。無表情の顔に見せた苛立ちを消して、ほんのり優しげな笑みを浮かべ―――というより嫌みな笑いににんまりとして―――アスカを抱きかかえる腕の力を弱めてくれていた。それでアスカは男の腕からするりと抜け出られた。そしてひょいっと軽く地面に下り立てた。とはいえ、そこに感謝はない。 「アルファの望みが一致した」  むすっと、むかつくままにそう続けていた。

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