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肉の塊の前での?

「あんたがここを……」  男にすれば、アスカの願いを叶えてやったのにというところなのだろう。ややおとなしめに話していたアスカが、突如むすっとしてみせたのが理解出来ないようで、気遣わしげに目を細めている。アスカにしても、むかつく理由を口にしたくはない。それで男の目付きに知らん顔をして、続きを聞かせた。 「ここを待ち合わせ場所にしたってのもよ、ここならクソガキの耳に入るこたぁねぇからさ、ったく、俺にすりぁ、なんもかも、クソったれな話だけどよ」  全ては男が悪いのだ。男には先に行動して説明を後回しにする癖がある。今回もその癖に祟られ、アスカは新たな人生の第一歩となるはずの必須物を忘れて来てしまった。思い出せても時既に遅しで、無念な思いに呻くしかなかった。さらに肉の塊の前での子供扱いだ。さすがにアスカも平静ではいられない。そうした悔しさにむすっとしているのが男にはわからない。わからせる訳にも行かないことだ。

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