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兄じゃはどこ?

「俺にすりゃぁさ」  男にわからせる為にも、大切なことは何度でも口にする。むかつくままに怒鳴りたいのを我慢しているのだ。むすっとしてみせるくらいのことにも、がたがた言わせはしない。そういった気分でアスカは続けた。 「マジ、クソったれな話だけどよ」  同じ気分でアルファを思い、苦々しげに言葉を繋いだ。 「クソガキと何があったのかは知んね……っ」  しかし、そこで内心はっとし、胸のうちで〝クソっ〟と呟いた。アスカの意識だけが時間と空間の狭間に入り込む。闇の領域に取り囲まれた怪しい山の頂上でのことだ。自然界の精霊が仕掛けて来たのだとアスカにはわかる。すぐ近くに立つ男には、少し離れたところで棺に腰掛けるアルファにも気付けないことだ。現実の時間と空間は止まっているも同然なのだから、わかるはずがない。 〝森に逃げ込んだぞ!〟 〝追え!追え!〟  物騒な怒号がアスカの耳に響く。それと同時に幼い少年の声を聞く。 〝兄じゃはどこ?〟

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