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引き取ったが誤り?
〝あやつは化け物、父母様共々を亡き者にし、逃げておりまする〟
そう少年に答えた声が、乳母のものというのがアスカにはわかっていた。自然界の精霊も効率よく進めるのを覚えたようで、暗闇に響く声ではわかりにくいことは、感覚として理解させている。乳母の様子に少年が怯えたのも、アスカには声の調子で見えていた。事実、少年は泣きじゃくり出し、乳母の口調もそれを咎めるように響いていた。
〝あなた様の兄ではありませぬ〟
女は続けた。子が授かれないのを憂えて、森の奥深くに生育するご神木に願掛けをした夫婦の話だ。暫くすると屋敷の軒下に赤子が置き捨てられていた。絹の産着に包まれた美しい顔立ちの赤子というのもあって、夫婦は我が子として迎えることにした。ところが数年して妻に子が宿り、念願の男子誕生となる。周囲は騒然となったが、夫婦は次子を授かれたと喜んだ。
〝妖しき様体の捨て子〟
乳母は唾棄するように続けた。
〝引き取ったが誤り〟
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