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加護を欲して?

「てか……」  アスカは思い出していた。男の変異を見せようとして、無理やり意識に入り込まれた時に聞かされたヌシの台詞をだ。 〝愛なんて、いざとなったら脆いからね〟  ヌシは自分への愛でアルファを変異させようとした。しかし、幼いアルファに理解出来ることではない。苦痛に喘ぐ思いが縋った相手も、ヌシではなかった。 〝父さま!母さま!〟  その瞬間、純粋でなければならない感情に濁りが渦巻く。変異は失敗し、アルファの魂もまったき闇に落とされることになる。 〝うあぁぁぁっ〟  ヌシの苦悶な叫びが、激しく揺れる木々の葉音に混じって響いて来る。そしてそこが森の奥深く、ご神木と呼ばれる巨樹の前というのが、アスカにもはっきりとわかった。同時に、ヌシの出生についても感覚として理解した。それは富貴を求めて祈念し、供物に我が子を捧げた者がいたことから始まった。大願成就は時の運、だからこそ人知を超えた加護を欲して、子の命と引き換えたのだ。

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