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子の母親に似て?
祈念した願いが叶ったのかはわからない。子の命で叶うものではないからだが、本来なら死していただろう子の命を救ったのが、人知を超えた存在―――妖気というのは皮肉なことではあった。
その妖気はチヲカテトスルモノの意識の集塊だった。遥か昔の戦いで肉体をなくしたそれが妖気となってご神木に寄生し、眠りについたのだ。ところが生きたいと泣き叫ぶ子の声に、好機到来と目覚めた。
〝時を待ち〟
妖気は子へと意識を漂わせ、微かな光と共に囁き掛けた。
〝そなたを我がものとす〟
人知を超えた加護は子に与えられた。子は心優しい夫婦に引き取られ、すくすくと成長し、何不自由なく幸せに過ごせていた。数年して弟が生まれると、子は弟を大層可愛がった。そうした頃に、領地を取り締まる郡司が新たに任命された。
〝まさか……〟
それは夫婦が暮らす村の里長に招かれた郡司の震え上がった声だった。遠目に見た子の顔立ちが、供物にした子の母親に似ていたからだ。
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