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この身を我に?
〝そやつ……〟
チヲカテトスルモノの楽しげな声が、子の口を通して森の奥深くに響き渡る。
〝……獣とす、よいか?〟
子は慟哭し、それでも共に生き永らえられるのならと頷いた。弟を救うにはそれしか方法がない。子も理解することだ。それは当然、チヲカテトスルモノを喜ばせた。
弟の魂は人狼の迷い子狼と入れ替えられ、子狼は群れに戻された。子狼は戸惑いつつもアルファへと成長して行くが、そうした日々の中で、獣となった身がチヲカテトスルモノに変異した兄の―――ヌシの所行と知った日に、僅かに残されていた情も捨て去った。アルファは成長するに従って悩まされた不快さに苛立ち、精霊に答えを求めたのだった。
〝まことか?〟
人の言葉を発しようと変身したアルファのその口調に幼さはない。感覚として理解する姿にも、少年といった年頃ながら立派な体格を思わせる。それが裸体というのは理解するまでもないことではある。
〝我が兄が、この身を我に……〟
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