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信じる者は?
「ったく……」
アスカにすれば災難でしかないことだ。青年の一族はモンスター居住区解放反対派を操り、支援者の娘を行方不明にまでした。お陰でアルファのかかわりを懸念したヌシの我がままが炸裂し、男を使ってアスカを呼び付けた。その日を始まりに、穏やかな暮らしを求めての移住というのに、男が占いの小部屋に現れてからのこの数日、アスカは少しも落ち着けないでいる。
自然界の精霊に聞かせられた過去にも、心がざわつく。チヲカテトスルモノは寄生して生きる意識の集塊だった。つまり寄生先をヌシにしている限りは、ヌシがチヲカテトスルモノそのものとなる。ところが悶え苦しむ感情を好物とし、追い詰めたがるヌシも、チヲカテトスルモノに感情を掴み取られていた。
ヌシには弟がいた。それが弱みになった。弟が不仲で有名な人狼のアルファと、人間の誰に話しても信じる者はいないだろう。しかし、話そうとしただけでヌシを激怒させるのは確かと言える。
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