841 / 962

ただのアスカに?

 現代では青年の一族が男の子孫を名乗っている。嫡流から遠く離れた末席の一族に乗っ取られた訳だが、男にはどうすることも出来ない。ヴァンパイアは過去をひた隠す。気に病んでも仕方ないことではある。謀叛を起こした家臣がその一族の末裔に転生していたのも、同じと言える。青年がアルファを訪ねて来たというその偶然で知れたことに驚きはしても、やはり男には何も出来ない。そこはアスカも理解してやれた。しかし、本音となるとこうなる。 「クソったれがっ」  胸の奥深くに男を愛によって変異させた女の魂を潜ませていなければ、気分はもっと楽でいられた。救いは青年にアスカの前世が見えていないことだ。そこには精霊の声が聞けるというアスカ本来の能力が関係する。つまり優秀であっても人間の能力者には、アスカはただのアスカに映る。モンスター達に人間相手に占いしか出来ない〝落ちこぼれの用なし〟にされたせいで、疑問に思われないだけのことなのだ。

ともだちにシェアしよう!