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連れて来た?

「だからって……」  男がさり気なく吹き抜けた風に紛れていたとは、この時のアスカには気付けなかった。男の背中に青年への思いを語ってしまったのも、そのせいと言える。 「俺みてぇな落ちこぼれの用なしにゃ出来ねぇ、だろ?」   瞬間移動を限界ぎりぎりまで鈍くしたといった感じなのだろう。男は滑るようにして進んで行くが、アスカの問いに答えようとはしないでいる。超絶耳聡いというのに無視を貫く。というより、察しろと言っているかのように見えなくもない。それはアスカに地団駄を踏ませる行為に等しい。 「クソっ」  男しかいないのであれば確実にしていたはずも、肉の塊のアルファに見られているのが意識されて出来そうにない。仕方なしに早足で男に追い付き、立ち止まらせようと腕を掴んだ。さすがに男も振り払うような真似をせず、視線をアスカに向けていた。 「なら……」  その銀白色を帯びた錫色の瞳を捉えて、アスカは続けた。 「なんで俺を連れて来た?」 

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