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困った奴だよね?
「それはね、私が……」
即座に返事をしたのが誰であるのかは、男の美声と真逆の物柔らかな口調に似合わない野太い声音で知れることだ。
「……望んだことだよ」
そう続けながら、肉の塊が―――アルファが棺に掛けていた尻を上げ、悠々とした仕草で歩き出す。黒に近い茶色の瞳に黄金色の色彩を微かに散らし、つまり僅かな興奮と共に男を意識して先に答えたという訳だ。
「そいつもそう言っていたよね」
その野太い声音が深閑とした山の頂上に重く響き渡る。
「最初、私と二人で十分と言われはしたけれど、君も交えてという私の気持ちには寄り添ってくれてね」
『人間外種対策警備』のエントランスホールでは群れを気遣っていたのだろう。アルファの一人称は〝我ら〟だったが、単体でいる今は〝私〟になっている。それくらい男と個人的な話をする気でいるようだ。
「本当に」
こちらに近付くアルファが男に目を向け、親しげに続けたのを見てもわかる。
「困った奴だよね」
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