848 / 962

しつけぇんだよ?

「クソがっ」  男の忍耐がどれ程であっても、アスカにとってはそうなる。ヌシに呼ばれた時と同じに、どこかしら色気漂う男の背中に隠されたのだ。守護を信念とする本能によるものとわかっているが、女扱いされたようで、目に麗しい背中を前にしても楽しめる訳がない。いっそアルファと殴り合って欲しいと思えるくらいだ。超高速なバトルに夢中になってくれたのなら、アスカは捨て置かれる。一人、闇の領域まで下りて行って別荘の裏庭へと戻りも出来る。 「っても……」  『人間外種対策警備』のエントランスホールでのように、男がすぐに連れ戻しに来るのを考慮し、元から諦めた。胸の奥深くに、男とアルファを二人だけの熱い世界に浸らせる女の魂を潜ませているのだ。とどまるより他ない。となれば、熾烈に見詰め合う二人の現状を打破する必要がある。 「おいっ」  アスカは大声で呼び掛けた。二人の意識がこちらに向くのを待って続けた。 「あんたら、しつけぇんだよ」

ともだちにシェアしよう!