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甘ったるい声音に?

「彼はね」  アルファは続けた。 「悠久の時を生きる私に対し、二十年そこそこ生きた時間を盾に、自信満々でいたんだよ」  『人間外種対策警備』の代表を務めていようが、青年との面談が間違いとわかっても苦行と捉えて耐えたように、人狼である以上は人間上位の慣行に従わなくてはならない。しかし、それを語るアルファの口調は楽しげだった。入り口での騒ぎに話題を変えられ、本物と評判の魔女について興奮気味に喋り出されても、驚きをもって聞き入るしかなかったということもだ。 「君の前世や守護者を知ろうにも、靄に覆われたようで何も感じ取れなかった、その感覚が余りに不思議で興味をいだかせたと……」  黄金色の色彩を微かに散らす黒に近い茶色の瞳にも、悪戯を仕掛けた子供のような煌めきが明るく瞬く。と同時に、アスカは自らの意識内においてのみ、アルファの野太い声音が青年の優しげで甘ったるい声音になっていることに、遅まきながら気付くのだった。

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