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これという変化を?
「五人まとめて送ってやったと……」
アルファの野太い声音に意識を向かわせ、アスカはじっとし続けた。内心ではイラついていたが、耐えるしかない。男の小姓をしていた五人の惨めな末路には同情するが、やはりアスカは自分が可愛い。アルファが語る内容を、青年の甘ったるい声音で正しく聞いたと知られては、何かしらの説明が必要になる。精霊が勝手に始めたことでも、盗み聞きに変わりなく、それを無邪気にゲロする気にはなれない。
「クソがっ」
「だね」
それでもつい口にした精霊への罵倒が場違いとはならず、話の流れに乗れていた。アルファの野太い声音が心持ちきつくなったことにも、素直に頷けている。
「転生するのに時間を要するよう、痛め付けたあとでとも言っていたしね、最期の慈悲なのだそうだよ」
アルファがちらりと男を見遣ったからだろう。アスカも釣られて目を向けた。当然だが、男の完璧な無表情と沈黙に、これという変化を見ることはなかった。
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